6「形」にこだわらない お値打ち考
山積みの「ボジョレ・ヌーボー」の売れ行き特売品並みだった。解禁日の昨年11月19日。980円のペットボトル入り新酒ワインを手に取った客は即、買い物かごに入れた。イオン系のスーパー、ジャスコのワンダーシティー店(名古屋市西区)は、当日夕方までに用意した550本を売り切った。 ボジョレは一昨年までは瓶入りの2〜3000円クラスが主流だったが、昨年は不況の影響で全体の輸入量が前年比で2割減少。こうした中、イオンは瓶入りを軽量のペットボトルに変えて空輸コストを削り、980円で売り出した。 山本浩司副店長(51)には「本当に売れるのか」との不安があったが、結果は完売。「やはり中身が大事。容器を変えても安くなれば買ってもらえる」と胸をなで下ろした。 ペットボトル入りボジョレはスーパーの西友や一部の酒半販店も販売した。配管業下山真一(45)は、同市北区の自宅近くにある酒販店で購入。「(2009年は)ボジョレ当たり年と言われていたし、容器が変わっても味は変わらず、満足した。いつもの瓶じゃないと寂しいけど、家で飲むならペットボトルワインは安くていい。」 一般のワイン市場では、「家飲み用」で大容量の紙パックやペットボトル入りが幅をきかせているのが実績。国産の販売量に占める割合をみるとメルシャンは紙パックが34%、サッポロはペットボトルが20%を占める。今や瓶入り、コルク栓は「晴れの日用」の高級品。両者は「経済性で選択する消費者が増えた」と分析する。 瓶入り以外の需要増は日本酒も同じ。出荷量に占める比率は2007年、紙パックとペットボトルの合計が51%に達し、瓶入りを初めて逆転(日刊経済通信社調べ)した。 中部地区が地盤の酒販店チェーンでは、「酒やビック」(愛知県稲沢市)がペットボトルの販売に力を入れる。商品部の宮川研マネージャー(39)は「ペットボトルだから安くなる、とのイメージが今回のボジョレで消費者に刷り込まれた」と説明。同社は、低価格ながら品質に優れたチリ産のペットボトルワインの輸入を計画している。 ただ、メーカー側には戸惑いもある。そもそもメルシャン、サントリーがフランス産ワインでペットボトル入りの通年品を売り出したのは、使い勝手がよく、リサイクルが可能な機能性を重視したためだった。 空輸で一度に大量に輸入するボジョレとは違い、船で輸入する一般ワインは、ペットボトル入りにしても大して輸送コストは下がらない。メルシャンは「安さだけをメリットとして消費者に受け止められると、売り方が難しくなる。」と話す。 それでも「安く、おいしければ『瓶』という形にこだわらない」という消費者志向の流れは止まらない。昨年暮れ、名古屋市名東区の酒やビック名東極楽店では、主婦渋谷理香さん(43)が初めてペットボトルワインを手にとっていた。デザイン、軽さとも気に入ったが、決め手は680円の価格。「1000円を超えるなら買わない」 デフレが加速している。消費者は「安さ」を追い求め、企業は価格以外の価値も商品に乗せ、差別化を図ろうとする。こうした中、売り手と買い手、それぞれが感じる「お値打ち感」に変化の兆しが出てきた。不況下のお値打ち品とは、どんな品なのか。消費者や企業などの新たな動きを追った。

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